特集 木の香

 

◆森林へのいざない
 森と上手に付き合う方法

   玉川大学農学部生物資源学科・助教授 杉本 和永

◆ログハウス、大好き

   ミュージシャン マイク 眞木

◆木に囲まれて暮らしていた

   落語家 林家 木久蔵

心も体もリフレッシュ
 木の香りが五感に語りかけてくる


相鉄沿線時代物語14・・・・和田町の巻
ぶらり寄り道!沿線スポット・・・・和田町
ご存じですか?・・・・ 「環境定期券ってなあに?」
今宵の肴14・・・・鯉のカルパッチョとサラダ仕立て


 

心も体もリフレッシュ
木の香りが五感に語りかけてくる

 

 

 

 

 

森林浴に行こう

 森林浴が体にいいことは、もうだれでも知っているでしょう。けれど、森林浴ということばができたのは、それほど昔のことではありません。

 1982年に、当時の秋山智也林野庁長官が提唱したことによって森林浴ということばが広がったのです。

 森林浴には、さまざまな効用があります。

 第1に健康に良いということです。

 第2に頭脳をリフレッシュさせることができます。

 第3に精神を安定させることができます。

 なぜ、このような効果があるのかは、後ほど説明しますが、そのキーワードとなるのが「フィトンチッド」です。これは、ちょうど森林浴ということばが広まり始めたころ、日本に紹介されました。森林の樹木から発散する不思議な活性素のことです。

 

植物の生きる知恵

「フィトン」とは植物、「チッド」とは殺すという意味を持っています。動物なら、敵から襲われたときに、逃げることも反撃することもできます。ところが、動き回ることができない植物は、害虫やダニ、カビ、細菌などから身を守ることが難しいのです。そのために、さまざまな分泌物を出して、虫が寄って来ると、葉や幹を食べられないようにその虫を追い払ったり、カビや細菌を殺したり、また、ほかの植物がはびこってこないように相手の根を枯らしたりして身を守っています。これが、フィトンチッドの正体です。

 植物は、種類によってさまざまなフィトンチッドを持っています。タマネギを刻むと目から涙が出るのも、ニンニクが強烈なにおいを持っているのも、ショウブをお風呂(ふろ)に入れるとさわやかな香りがするのも、みんなフィトンチッドの作用です。

 日本人は、緑が豊かな土地で森と共に暮らしてきたので、経験的にフィトンチッドの効能を知っていました。刺身には、ダイコンやシソの葉、ワサビなどを添えたり、桜もち、かしわもち、ささ団子など、植物の葉で食べ物を包んだりするのも、植物のフィトンチッドで食物に細菌を繁殖させないようにという生活の知恵なのです。

 

森の香りが体に効く

 フィトンチッドには、たくさんの種類があります。わたしたちが森林浴で利用するのは、このうちの揮発(きはつ)性のもの、空気中に放出されるものです。これらをわたしたちは、におい、香りとして感じることができます。

 木のにおいにはたくさんの成分が含まれています。トドマツ、エゾマツに含まれる「ボルネオール」という物質は、眠けを覚まして頭をすっきりさせますし、ヒバ、ヒノキの仲間から出る「ヒノキチオール」には、抗菌作用や養毛作用があります。バラの花から出る「シトラール」は、血圧低下作用があります。

 ですから、植物の香りで気分が良くなったり、気持ちが引き締まったりするのは、単なる気分的なものではないのです。

 

森は五感で楽しみたい

 一般的に見て、この揮発性のフィトンチッドは、初夏から夏にかけてが最大となります。1日のうちでは、午前中から正午にかけて濃度が最高になり、午後になると少しずつ低くなって、夜は昼に比べて1/10以下になります。ですから、フィトンチッドをたくさん浴びるためには、初夏の午前中に森林浴に出かけるといいということになります。

 ところで、森林浴には確かにこの香りが体に良い作用を及ぼしていることは間違いありません。しかし、森が体に良いのは香り(=フィトンチッドの作用)だけではありません。森の中は、木がドームのように辺りを包み込み、外界と遮断された空間です。そこは、空気が清浄で、音が静かで、風が無く、温度や湿度が一定しています。この環境がわたしたちに良い作用を及ぼすのです。人間には五感があります。視覚・聴覚・嗅(きゅう)覚・味覚・触覚です。香りは嗅覚で感じますが、この五感全体に訴えかけてくる、五感全部に効くのが森林浴なのです。

 森の中は静かです。木は、音を遮る力を持っています。森に少し入っただけで、雑音から解放されて、ホッとします。現代人はいかに、騒音に包まれて暮らしているかを気づかせてくれます。静けさの中に身を置くと、人は安らぎます。自分の内面に目を向けて思索にふけることも容易になります。

 新緑の緑、秋の紅葉を見て感動しない人はいません。目に優しい緑、立木の美しさ、時折訪れる小鳥や小動物の愛らしさなどに感動することもあります。木々の合間からこぼれ落ちる日の光は、神秘的な気分にもさせてくれるでしょう。森は目も楽しませてくれます。

 木に触れてみる。すべすべの幹、ごわごわの樹皮。下草の中に寝転んで全身で大地を感じる。そして、湿度と温度が一定した快適な空気を楽しむ。時には、はだしになって土の上を歩いてみるのもいいでしょう。考えてみれば都会での生活は土に触れることも少なくなっています。そうやって、肌で感じる森もあります。

 そして、もしできれば(許可と知識がいりますが)、木の実、花の蜜(みつ)、清水などを味わうこともしてみたい。草の葉を口に含んでみるだけでもいいかもしれない。味わう森だってあるのです。

 これから、夏にかけて、森林浴を楽しむのには最適な季節となります。こうして、五感をフルに活用して、森を散策してみてください。

※参考文献/「森は効く」(五柳書林)・「森林の不思議」(現代書林)・「大気に浴し元気よく」(草木文化)

 

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