>>瓦版トップ >>160号トップ >>特集 ストレスとの賢い付き合い方
Illustration:Igarashi Akira
「ストレス」と「ストレッサー」の見極め
 「ストレスとは何か」という定義は専門家や研究者によってまちまちですが、簡単に言うと「心身に負荷がかかった状態」です。例えて言えば、圧力がかかってひずんだボールのようなもの。専門的には、ボールがひずむ原因を「ストレッサー」、ひずんだ状態や結果を「ストレス」と呼び分けています。この呼び分けは、ストレス学説の発案者であるハンス・セリエ博士が提唱したものです。一般的には原因と状態の両方をストレスと呼び慣らわしていますが、ストレッサーとストレスを分けて考えることは、より的確にストレスに対処する上で大きな意味があるのです。

 例えば、仕事が忙しく、それが引き金となって頭痛に悩んでいる人がいるとします。その状況を脱するためにストレッサーとストレスを分けると、問題解決へ向けた2つのアプローチが見えてきます。1つ目はストレスの原因であるストレッサーを根本から解決する方法です。先に挙げた例に則していえば、自分が担当している仕事を減らすためにほかの人に分担してもらうといった解決策が考えられます。2つ目が原因よりも先に状態や結果を解決する方法です。頭痛に悩んでいるのであれば、当たり前ですが、頭痛薬を服用する。この場合、すぐに抜本的な解決には至りませんが、頭痛がやわらいで余裕ができた段階で本格的な問題解決を図るために動き出せばいいわけです。

 ストレスに悩んでいる人の多くは、ストレッサーである仕事もストレスである頭痛もいっぺんに解決しようとして、結果的に手をこまぬきがちです。でも、ストレスの原因と結果とをしっかり識別し、自分の置かれている状況を冷静に判断すれば、何から手をつければよいのか自然と見えてくるのではないでしょうか。そういったことから、ストレッサーとストレスを分けて考えることは重要なのです。

すべてのストレスが悪玉ではない
 多くの人がストレスを減らしたいと考えていると思いますが、残念ながらストレスを完全になくすことはできません。そもそもストレスは、外側や内側からの刺激に適応していくための心身の自然な反応です。ストレスがゼロの状態とは、すなわち刺激がまったくない状態と言えます。嫌なことや苦しいことがない半面、楽しいこともない。そのような状況が続けば、今度は逆に退屈さがストレスとなってくるでしょう。生きている限り、刺激を受けてストレスを感じるのは当然のこと。ストレスと生きるということは同義だと言っても過言ではないのです。

 では、どのようにストレスと付き合っていけばよいのか。ここまでは、ストレッサーやストレスは有害なものという前提で話を進めてきました。しかし、すべての菌やウイルスが悪玉ではないのと同様、ストレスにも悪いストレスだけでなく、良いストレスもあるのです。例えば、仕事が嫌で仕方がないという人にとっては、当然、仕事は悪いストレスとなります。でも、仕事に夢中で打ち込んでいる人にとっては、仕事は良いストレスです。自分を奮い立たせてくれたり、活力を与えてくれるような夢や目標などは、良いストレスとなるのです。反対に、自分が不快な気持ちになったり、やる気がなくなったりするような過労や人間関係の悪化などは、悪いストレスとなります。

 こうした良いストレスと悪いストレスに関して、ストレス学説の発案者のセリエ博士はある指摘をしています。それは、「有害な刺激に限らず、どんな刺激でも同じ反応プロセスをたどる」というものです。例えば、好きな人にふられるとします。きっと心臓はドキドキしてくるでしょうし、汗もかくかもしれません。これは、悪いストレスに対する体の反応です。逆に、意中の人から好きだと告白された場合はどうでしょう。こちらは良いストレスですが、悪いストレスを受けた場合と同様、きっと心臓はドキドキしてくるでしょうし、汗もかくのではないでしょうか。

 これがセリエ博士のいう、良い悪いにかかわらずストレスに対しては同じ反応を示すということなのです。ただし、心身にかかる負荷という点では、悪いストレスよりも良いストレスのほうが相対的に少ないことが分かっています。そうしたことから、セリエ博士もストレスへの最適な対処として「良いストレスを最大にし、悪いストレスを最小にすること」だと述べています。言われてみれば当然のことですが、これがストレスをケアする最も基本的な考え方だと言えるでしょう。

ストレスの良し悪しを決めるもの
 ストレスを考える上で重要なポイントになるのが、その受け止め方です。雨が降ってきたときに、恵みの雨だと喜ぶ人がいる一方、うっとうしく感じる人もいるでしょう。雨という同じストレッサーであっても、プラスにとらえればそれが良いストレスとなり、マイナスにとらえると悪いストレスになるのです。ストレッサーの受け止め方を左右しているのは、価値観や考え方、経験や性格などのさまざまな要因が考えられます。「気の持ちよう」という言葉もありますが、なるべくストレッサーをプラスにとらえるようにすることも、ストレスへの対処法としては有効だと思います。

 性格に関しては、メイヤー・フリードマンとレイ・ローゼンマンという心臓病の研究医が、興味深い研究成果を発表しています。「せっかちで、責任感が強く、仕事に最大の関心を置き、競争心が強く、努力家」といった性格の人のほうが、そうでない人と比べて心臓病になりやすい傾向があるというのです。一見、仕事やストレスへの対処能力が高そうに見える人のほうが、その実、肉体的にも精神的にも相当な負担を抱えているケースが多いのです。

 実際、現在の日本のビジネスマンを取り巻く状況を見ても、有能な人ほど高いストレスを抱えている傾向があります。成果主義や能力主義を積極的に取り入れている企業では、できる人に仕事が集中しますし、より高いノルマを課せられます。でも、有能な人は次々とクリアするため、さらに仕事が集中する。しかも、周囲の人も「彼なら大丈夫だろう」と、その人の心身を気遣わなくなりがちです。その結果、ちょっとしたことでバランスを崩し、決定的な状態に陥ってしまう人が増えているのです。ビジネスマンに限らず、どんなに有能な人でも心身の限界は当然あります。自分を過信することなく、ときには心や体に注意を向けることも大切なことだと思います。

心身のエネルギーのバランス
 ここで、簡単なストレスレベルのチェックテストを行ってみましょう。以下の20の項目のうち該当するものをチェックしてください。

1□ 身体が疲れやすい
2□ 眠れない
3□ 食欲がない
4□ ため息がよく出る
5□ ついつい食べ過ぎてしまう
6□ 肩や首がこる
7□ 身体が落ち着かない
8□ 性欲がない
9□ 体重が減った
10□ 胃が痛む
11□ イライラして落ち着かない
12□ 何もやる気がしない
13□ 気がかりなことがある
14□ さみしいと感じることが多い
15□ 何もかもが「もうどうでもいい」と思う
16□ 何をしても集中できない
17□ 何かにおびえている
18□ 自分らしくない生き方をしていると感じる
19□ 死んでしまいたいと思うことがある
20□ このままではダメだと思う
製作・著作/ストレスケア・ドットコム

 チェックした項目が10個以下の方のストレスレベルは「標準以下」、11個から14個の方は「やや高め」、15個以上の方は「かなり高め・要注意」と考えられます。

 まず、標準以下だった方のストレスへの対処法として有効なのは、趣味でも旅行でも構いませんが、気分転換を図ることです。原因となっているストレッサーのことを考え続けると意識がのめり込んでしまい、客観的に対象を見られなくなってしまいます。そこで、気分転換をすることで一時的にでも別のことに意識を向ける必要があるのです。ストレスは、心身のエネルギーのバランスが崩れていることを示すサインです。そのバランスの偏りを修正する意味でも、早めに気分転換を図ることが大切です。

 次に、やや高めだった方は、何よりもまず休息を取ることです。無理に気分転換をしようとすると、かえってエネルギーの消耗を早めてしまい、結果的に逆効果となりがちです。長時間の睡眠や入浴、好きな音楽を聴くなどの非活動的なケアを行い、心身のエネルギーを補給・回復させることを最優先してください。そして、かなり高めの方、あるいはやや高めであっても現在つらいストレスを感じている方は、専門家に相談することをお勧めします。
最も簡単で有効なストレス対処法
 パソコンや携帯電話が普及した結果、現在、メールに関するストレスが急増しています。メールの返信がこないことにやきもきする人がいる一方、メールが届くことそのものに疎ましさを感じる人もおり、世代を問わずメールでのストレスを感じている人が多いようです。特に深刻なのが低年齢層で、メールやインターネット上でのイジメが時々ニュースになりますが、わたしが運営しているサイトにも多くの小中学生から相談が寄せられています。

 成人であれば会話などの直接的なコミュニケーションの能力やノウハウがありますが、小中学生にはそれほどありません。直接、会話をすれば簡単に解決するようなことをメールなどの間接的なコミュニケーションだけに頼った結果、問題がこじれるケースが多いように見受けられます。もちろん現代においてメールの利便性は欠かせませんし、会話によってストレスが生まれることもありますが、自分の思いをより正確に伝えるためにも直接的なコミュニケーションが重要だと思います。

 ストレスへの対処法というと難しく考えがちですが、最も手軽で有効な方法は、気のおけない友人や家族との会話です。職場の人間関係でストレスを感じているのであれば異業種の友人などと、家庭でのストレスならば家族以外の人と会話をすることで、多少なりとも気分をリフレッシュできるでしょう。いずれにしろ、一人でストレスを抱え込まないことがポイントです。

 繰り返しますが、ストレスをゼロにすることはできません。そうである以上、ストレッサーの受け止め方を変えるなりして良いストレスを増やし、早い段階で気分転換を図ることが大切です。かわしたりなだめすかしたりしながら、ストレスと上手に付き合ってください。(談)

かとうたかゆき■1962年生まれ。「Forbes日本版」の編集者を経て、1996年にストレスケアの総合情報サイト「ストレスケア・ドットコム」を開設。以後、執筆活動をはじめ、メール・カウンセリング、コンサルティングなども行っている。著書に「ストレス解消ハンドブック」(PHP)など。
http://www.stresscare.com/

>>このページのトップへ<<
前のページへ 次のページへ