>>瓦版トップ >>163号トップ >>特集 相鉄線沿線で出会った街の達人
 創業から60年近い歴史を持つ「戸山家具製作所」。その二代目の戸山顕司さんと三代目の戸山顕一さんを中心に、十数人の職人の方々が伝統的な洋家具作りを行っている。まずは、二代目の顕司さんに戸山家具製作所の成り立ちについて話を伺った。
〈二代目・顕司さん〉
 創業者である父は、明治44年に横浜の元町で生まれました。今は残念ながら一軒もありませんが、往時の元町には洋家具を作っていた店がひしめいていたそうです。父の生家は和菓子屋だったのですが、そういった環境で生まれ育ったことが影響したのでしょう。13歳のときに、イス作りの名門として知られる東京・芝の古谷製作所に修業に入ります。その後、結婚を機に横浜に戻り、造船会社のドックで艦船用の家具作りに従事しました。

 第二次世界大戦で父は満州に出征し、終戦後は旧ソ連軍の捕虜になってしまいます。ただ、ほかの抑留者と違って父が幸運だったのは、家具作りの腕があったこと。初めの半年ほどは炭坑夫をしていたそうですが、家具職人であることが分かると、収容所長から別室をあてがわれました。そこには同じ家具職人のドイツ人抑留者もいて、一緒に旧ソ連軍の高官などのために家具作りに励んだと聞いています。かなり待遇がよかったらしく、引き揚げてきたときの父はまるまると太っていたようです。

 父は帰還後間もなく、昭和23年に家具屋を開業しました。時代的に家具の需要が少なく、当初は麺(めん)を入れる箱などを手掛けていたようです。それでも腕を見込まれて徐々に仕事がくるようになり、オーダーメードなどの家具作りを商売の柱に据えるようになりました。そのころは横浜市鶴見区で営業していましたが、縁があって昭和48年に海老名に移ってきたんです。

手間暇を惜しまないのは「一生もの」を超える家具を作るため
〈三代目・顕一さん〉
家業を継ぐことを強要されたことはないが、「祖父や父から木工の楽しさをさり気なく刷り込まれた影響が大きい」と顕一さんは笑う
 うちの家具の特徴の一つは、天然の無垢(むく)材を使用していること。そして、その木材の仕入れから塗装までを一貫して行っていることです。木材を仕入れてくると、天然乾燥といって自然に近い状態で乾燥させます。木材の種類にもよりますが、標準的なテーブルの厚さである2インチ(約51mm)の板であれば、まず2、3年は天然乾燥させます。さらに3、4週間、人工乾燥を行って木材の水分(含水率)を8パーセント程度まで乾燥し、養生期間をおいてから加工に入ります。木材の種類によっては、天然乾燥に10年以上かけることもあります。

 うちの家具の構造的な特徴は、江戸指物の接合技術であるホゾを採用していることです。例えばテーブルの場合、一般的なものは天板と脚をボルトなどで留めるのに対し、うちの無垢材の家具ではホゾ組構造に加え、駒止(こまどめ)という金具を採用しています。これらは祖父の代から受け継がれている技法で、ボルトなどを使うよりも面倒ですが、とにかく強度が高い。極端な話、うちのテーブルは自動車を載せてもまったく問題ないくらいの強度を誇ります。

 木材にしろ技法にしろ時間や手間をかけるのは、長く愛用される家具を作るためなんです。うちの看板商品に「コロニアル」というシリーズがあります。これは祖父が昭和45年に開催されたコンクールに出品して、優秀賞を獲得したものです。この家具は販売を始めて40年近く経(た)っていますから、メンテナンスを頼まれるお客様も親子2、3代にわたっています。よく高品質の製品を指して「一生もの」と言いますが、うちの家具は一生どころか2世代3世代と使い続けることができる。そういう自負があるし、そのためにはどの工程においても手間暇を惜しむことなんてできないんです。

あうんの呼吸で仕事ができるベテラン職人は貴重な存在
〈三代目・顕一さん〉
 うちの一番の財産は祖父の代からの技術であり、それを受け継いでいる職人の方々です。今、家具メーカーでは分業制が進んでいて、部品ごとに担当が分かれているのが一般的だと思います。だから、自分の担当している工程については分かるけれど、ほかの工程で何をやっているのか分からないという人が多い。うちでも規格製品の場合などは各工程ごとに分担して作ることもありますが、職人はみんな家具作り全般の工程に精通していて、一人で仕上げまで一貫してできます。だから、ある工程だけを担当していても、常に最終的な仕上がりをイメージしながら仕事ができる。そういったイメージ力は家具職人にとって欠かせない能力の一つだと思います。

 うちの職人の中でも特に大きな存在が、祖父がいたころから今に至るまで現役の4人。それぞれキャリア40年以上になります。彼らくらいになると図面などはほとんど必要としません。「こんな感じで」とアバウトに頼んでも、望んだとおりの角度や大きさに仕上げてくれるんです。大規模な工場では図面をもとに作業をした方がいいでしょう。でも、うちくらいの規模だとあうんの呼吸で仕事を進めた方が、迅速だし正確なんです。

 今、主に木取りを担当しているのも、そんなベテラン職人の一人です。木取りというのは、乾燥を終えた木材を家具の材料として整える作業工程のこと。機械式のカンナなどで木材を削っている作業風景を見ると、割と簡単にできそうな仕事に思えるでしょう。でも、家具作りにおいてとても重要な仕事なんです。例えば、テーブルの天板に3枚の板を用いる場合、一枚板に見えるように木目をそろえる必要があります。しかも、その木目が斜めに入っていると見た目が美しくないだけでなく、強度の面でも難がある。だから、何気ない作業に見えるけれど、完成品を想像し、木目を正確に読み、なおかつ迅速に作業しなければいけません。昔ながらの家具作りをしている工場では、たいてい木取りはベテランの職人が担当しています。亡くなった祖父も木取りに長(た)けた人でした。

 僕自身も一通りの工程はできるし、繁忙期には工場に立つこともあります。ただ、今は経営や営業に専念しているので、自分自身を職人だとは思っていません。僕はもともとカーレースのドライバーをやっていたのですが、30歳のころにふとわが家のことを客観的に考えたときに、貴重な技術や絶やしてはいけない伝統があることに気付いたんです。それで家に戻って職人の方に家具作りのイロハを学びながら、うちに足りないものは何かと考えたときに、外に向かってPRすることだと思い至りました。子どものころから慣れ親しんだ場所だし、モノ作りが好きなので家具作りの現場にいたい気持ちもありますが、現状では経営や営業で手一杯なんです。ただ、どうやら父は僕が事務方に専念することを望んでいるのではないかと思います。
家具作りの重要な工程である木取り担当の村田裕啓(やすひろ)さん

「上達するためには、面白がることが重要です」
 キャリア40年超のベテラン職人でもある二代目の考えとは−−。
〈二代目・顕司さん〉
 わたしが20歳過ぎで家具作りの世界に足を踏み入れるときに、父から言われた言葉があります。それは「おまえには仕事を教えない」というもの。この言葉の真意が分かったのは後年になってからですが、要するに父は家具作りは面白いから気をつけろと言いたかったんです。木工に夢中になってしまうとお客さまと接する時間、つまり商売がおろそかになってしまう。そうならないように木工はほどほどにしておけというのが、父の教えだったんです。

 でも、わたしは教えに背いて家具作り、特に塗装にのめり込んでしまいました。だから、今、三代目の息子が営業に専念しているのは、わたしにとって喜ばしいことなんです。わたしの技術を受け継がせるのは、息子でなくてほかの職人でもいいわけですから。

 門前の小僧ではありませんが、わたしは小さいころから工場に出入りしていたので、この世界に入るとなった時点で、ある程度は家具作りを理解していました。そして、仕事をするようになって間もなく、日本の洋家具塗装の神様と呼ばれた斎宮武勒(いつきぶろく)さんと出会うことができたんです。もともと塗装に興味があったこともあって、それからは斎宮さんにしつこいくらいつきまとって教えを受けました。10年ほどして「もう君に教えることはない」という言葉をいただいたのですが、それから間もなくして斎宮さんが亡くなられたんです。師匠が亡くなった悲しさはもちろん、まだ教えていただきたいことも山ほどあったので本当に途方に暮れました。それからは、アメリカやデンマークに出向いて世界的に知られる塗装職人の方々に教えを請いながら、わたしなりに塗装技術を磨いてきたんです。

 うちの家具はオイルフィニッシュとラッカー塗装という2種類の塗装方法を採用しています。ラッカー塗装の場合、15工程ほどの段階を踏んで2日がかりで塗装を施します。これだけの手間をかけるのは、家具の強度を高める目的もありますが、化粧の意味合いも大きいんです。女性がアイシャドーを塗るなどして顔を立体的に見せる化粧を施すでしょう。それと同じように、出っ張っているところは薄めに、くぼんでいるところは濃いめに塗料を塗ることで、陰影があって奥行きのある家具を生み出せるんです。

 また、うちは無垢材を使っているので木目にも気を配ります。イスが10脚並んでいたら、遠目には10脚とも同じように見え、近づくと一脚一脚が本来の木目が生きた個性的な塗装でなければならない。塗装によって、ある面では木材の個性を殺し、ある面では木材の個性を引き出す必要があるんです。

 塗装は家具作りの最終仕上げで、失敗するとそれまでにかけた手間暇がすべて水泡に帰してしまいます。責任重大だから、若くて経験の浅い職人などは腰が引けてしまうんです。わたしがよく言うのは、中華料理の野菜いためと一緒だということ。下ごしらえをきちんとやり、自分がどう動くべきかを事前にイメージしておき、いざ作業に取り掛かったら強火で一気に仕上げる。塗装も、作業は素早く短時間で片付けるのが基本です。

 何事もそうでしょうが、塗装にしても家具作りの各工程にしても、経験やセンスが求められます。だから、一朝一夕に上達するわけではありません。ただ、わたしは45年ほどやって来て、いまだに塗装が楽しくて仕方がない。好きこそものの上手なれではありませんが、上達するためには面白がれるかどうかというのは大きいでしょう。現在、わたしはうちの若い子や自分の娘、職業訓練校などで塗装を教えていますが、技術的な面だけでなく塗装の楽しさを伝えるのも自分の役目だと考えています。
幼少のころに父親から贈られた筆箱が家業を継ぐ決め手になったという顕司さん。「ふたの裏に“真心”と彫られていて、感動しました」

Knock on wood[ノック オン ウッド]
海老名市今里1248
TEL.046(292)3511
営業時間/10:00〜18:00
定休日/水曜
http://www.knockonwood.co.jp/

戸山家具製作所の工場に併設された直営ショップ。家具のフルオーダーはもちろん、規格製品のサイズや色の変更といったセミオーダーも可能(クラシック家具のイスで4万3,575円〜)。リフォームの相談なども受けています。希望すれば、工場内の作業風景の見学も可能。


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