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鉄道グッズが充実している国とは |
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(1)ドイツの超特急「ICE」を模した塩・コショウ入れ(2)スイスの「氷河急行」名物の傾いたワイングラス(3)中国の列車長(車掌)のワッペン(4)マレー半島を縦断する「E&O」の蝶ネクタイ(5)南アフリカの「ブルートレイン」で乗車記念にプレゼントされる目覚まし時計(6)「オリエント急行」(VSOE)で提供される路線地図、絵葉書などの無料グッズ(7)エリザベス女王ご一家も乗車されたビンテージカーを運行している「ブリティッシュ・プルマン」のテディ・ベア
[写真提供/櫻井寛](以下同) |
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わたしは世界70カ国以上の鉄道を旅してきました。旅先で折々に手に入れた鉄道グッズは2,000点以上に及びます。そんなわたしの好きな国は、当然、鉄道そのものが充実し、鉄道グッズも豊富な国。そうした国を旅しているときは鉄道グッズを求めて楽しくも忙しい時間を過ごしますし、逆に鉄道グッズの乏しい国では「この国では鉄道が愛されていないのか」と寂しい気持ちになります。もちろん経済的にゆとりのない国では、鉄道グッズはほとんど見掛けません。例えば終戦直後の日本にも、鉄道グッズなど存在しなかったでしょう。ただ、そんな食うや食わずの時代でも、日本には鉄道を趣味としている人が大勢いました。ですから、先進国イコール「鉄道趣味」が盛んかというと、必ずしもそうとは言い切れないと思います。
ヨーロッパでもイギリス、ドイツ、スイスといった北の方の国々には「鉄道趣味」に熱心な人がたくさんいます。それが、スペインやフランス、イタリアといった南の方に行くとそうでもなく、国や地域によって温度差がある。アジアに目を向けても、中国本土ではあくまでも交通手段として鉄道に接している人が大半ですが、香港や台湾では「鉄道趣味」が盛り上がっています。
ですから、突き詰めて考えると、鉄道が国民に親しまれている国ほど鉄道グッズが多く、「鉄道趣味」も盛んだという当たり前の結論に達します。ともかく鉄道グッズの多寡は、その国に鉄道を趣味として楽しむ文化が根付いているかどうかを計る重要なバロメーターだと言えるでしょう。
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| 「鉄道密度」もグッズの質量も別格の国 |
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モンディーン社製の腕時計(左)と置き時計(右) |
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ヨーロッパには鉄道発祥国のイギリスや超特急ICEを擁するドイツなど、鉄道文化度の高い国がひしめいています。そんな中でも、特に鉄道が発達している国がスイスです。スイスの国土は日本の九州とほぼ同じ面積ですが、九州の倍近い鉄道網が張り巡らされています。いわば世界一の「鉄道密度」を誇る国なのです。日本の北海道オホーツク海沿岸の地域は周囲200km以上にわたって鉄道がありません。ところがスイスでは、国内のどの地点からでも16km以内に鉄道があると言われています。スイスは国土の大半がアルプスなどの山々に覆われていることを考えると、この「鉄道密度」は驚くべきことです。
スイスでは鉄道グッズの質や量も、ほかのヨーロッパ諸国に比して格別の感があります。モンディーン社製のスイス国鉄公式鉄道時計などは、日本でもよく知られている逸品でしょう。この腕時計は昔は一種類しか発売されていなかったのですが、数年前から毎年新作が発売されるようになりました。わたしもすべてではないにしても気に入ったものを次々購入するうち、今では数十個を所有するまでに至っています。この時計に関しては、こんなこともありました。
今年の7月にスイスを旅したときに、去年版の気になるモデルを見掛けました。でも、そのときはほかにも欲しいグッズがあり、財布と相談した結果、購入しなかったのです。帰国した後も、モンディーン社のカタログを眺めては「なぜ買わなかったのか」と自分を責めさいなむような日々を過ごしていました。すると、9月に再びスイスを旅する機会を得たのです。チューリッヒに到着するや、空港の駅の窓口へと駆けつけました。そこには意中の腕時計があり、しかもうれしいことに定価の230ユーロ*が195ユーロに値下げされていたのです。販売員の人に聞くと、それはそこで売られている最後の1個ということでした。
鉄道グッズとは一期一会で、気になるものを見掛けたら即購入が鉄則です。いつ再びその場に戻れるか分からないし、戻っても売り切れている可能性がありますから。そのことは百も承知しているのに、わたしの中の冷静な大人が「この旅は懐が寂しい」とか「まだ旅は始まったばかりだ」などと、無邪気なコレクターのわたしを説き伏せてしまうことがあるのです。そうすると、後々激しい後悔の念にかられます。そのモンディーン社製の時計に2カ月ぶりに再会できたときは、運命のようなものを感じて本当にうれしかったですね。
*1ユーロ=約160円 |
| 鉄道の衰退に反比例して趣味が盛んに |
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「20世紀特急」で使用されていたコーヒーカップのレプリカ |
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スイスの人口は700万人超ですから、国民1人あたりの鉄道グッズ数は世界一だと断言して間違いないでしょう。では、単純に鉄道グッズの数そのものが多い国はというと、世界の超大国であるアメリカです。でも、スイスの鉄道が国民の足としてきちんと機能しているのに対し、アメリカの鉄道は著しい斜陽の中にあります。モータリゼーションと航空網の発達により、アメリカの鉄道は衰退の一途をたどっているのです。貨物列車は健在ですし、都市部の旅客鉄道は機能していますが、アメリカ全体の「鉄道密度」は残念な状況にあります。アムトラックなどの今なお現役の大陸横断鉄道もありますが、ノスタルジーを感じる目的で利用している乗客がほとんどです。
アメリカに多くの鉄道グッズが存在するのも、そうした郷愁が引き金となっています。例えば、かつてニューヨーク〜シカゴ間をNYC(ニューヨーク・セントラル)鉄道の「20世紀特急」が運行していました。ヒッチコック監督の「北北西に進路を取れ」やポール・ニューマン主演の「スティング」といった映画にも登場する、アメリカの代表的な名特急です。残念ながら、「20世紀特急」は1967年を最後に運行をやめてしまいました。姿を消してから40年も経(た)つわけですが、今でも「20世紀特急」に関するグッズは販売され続けています。そうしたグッズを手にしながら、アメリカの鉄道ファンはありし日の「20世紀特急」に思いをはせているのです。
アメリカでは鉄道模型も盛んですし、アメリカ全土には数百もの鉄道博物館が存在します。日本から見ると信じられないほど、鉄道文化度の高い国です。逆説的ですが、鉄道そのものが衰退し、今後も復活する兆しがないからこそ、アメリカでは「鉄道趣味」が盛り上がっているのです。
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| さまざまな思いが詰まったグッズの力 |
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「GSPE」のラウンジカーをモチーフにした、すず製の文鎮 |
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1999年、オーストラリアに世界屈指の超豪華列車が誕生しました。シドニーとケアンズを結ぶ「GSPE」(グレート・サウス・パシフィック・エクスプレス)です。でも、乗客数が少ないことなどもあって、わずか数年で運行を停止してしまいました。もう二度と乗車できない幻の列車ですが、「GSPE」のグッズを見ると乗車し旅した日々をありありと思い起こすことができます。アメリカ人ではありませんが、鉄道グッズには昔日へと誘ってくれる力があるのです。
鉄道グッズが連れて行ってくれるのは、過去だけとは限りません。例えば、スイス国鉄公式時計の文字盤には、「スイス連邦鉄道」の頭文字がSBB(ドイツ語)、CFF(フランス語)、FFS(イタリア語)と3カ国語で記されています。そして、その文字盤の上で、先端の丸い真っ赤な秒針が時を刻んでいる。これはスイスの各駅のプラットフォームに掲げられている時計と同じデザインです。ですから、この文字盤を目にする度に、わたしの心は一瞬にしてチューリッヒ駅などのプラットフォームに飛ぶことができます。
わたしには1年を通して世界中を旅していたいという願望があります。でも実情はというと、1年の半分は国内外を旅していますが、残り半分は事務所で原稿を書くなどして過ごしています。そんな旅に出たくても出られない時期のわたしにとって、鉄道グッズはなくてはならない魔法の宝物なのです。
わたしが鉄道グッズを購入するのは、「旅」そのものを切り取って持ち帰るような感覚があります。「旅」が詰まっているからこそ、グッズに触れることでいつでも気軽に世界を旅することができる。しかも鉄道グッズには、その国の人々の鉄道への愛情が注ぎ込まれていますから、世界中の鉄道好きの人との連帯感のようなものを感じることもできます。これからもそうした「旅の宝物」を求めて、世界中の鉄道を訪ねたいと思っています。(談)
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| さくらいかん■1954年、長野県生まれ。出版社の写真部勤務を経て、1990年にフォトジャーナリストとして独立。「鉄道世界夢紀行」(トラベルジャーナル)にて交通図書賞を受賞。「オリエント急行の旅」「日本全国 絶景列車の旅」(以上、世界文化社)ほか著書多数。 |