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朝食抜きが「もったいない」理由 |
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厚生労働省が行っている「朝食の欠食*率」のここ数年の調査結果を見ると、およそ1割の人が朝食を食べていません。年代別では男女とも20歳代がもっとも高く、男性で約3割、女性で約2割が朝食を欠食しています。「時間がない」「食欲がない」「そもそも習慣がない」「ダイエット」など、朝食を抜く理由はさまざまでしょう。でも、朝食を食べないことは、とても「もったいない」ことなのです。
よく「脳や体を目覚めさせるために、朝食は不可欠」といわれます。「脳や体が目覚める」とは、どういった状態を指すのでしょうか。人間の体は一般的な平熱である36度前後のときに、脳はもちろん、ホルモンや酵素の分泌なども活性化します。ただし、体温は1日を通して一定ではありません。就寝すると人間の体温は下がり、睡眠中は35度台にまでなるのです。そして体温が下がるとともに、体全般の活動も低下します。ですから、起床後に体温を上げてあげないと、脳や体は再び活発に働くことができません。
特に熱い料理や辛いものを食べたわけでもないのに、食後に体がポカポカした経験があるでしょう。これは食べ物を咀嚼(そしゃく)し、消化、吸収する過程で体温が上昇する「食事誘発性体熱産生」という現象によるものです。朝食を抜くと、こうした食事による体温上昇が期待できません。だから、昼食までの時間を低体温のまま、脳や体が鈍い状態のまま過ごすことになるのです。
体温を上昇させるには適度な運動や入浴なども効果的ですが、食事でなければできないことがあります。それが、大切な脳へのエネルギー補給です。人間の脳は全体重の2%ほどの重さですが、全エネルギー消費量の約18%を占めます。そんな脳の唯一のエネルギー源が、血糖(血液中のブドウ糖)です。小学校の授業で習ったと思いますが、ご飯やパン、うどんなどの炭水化物は体内で分解されてブドウ糖になり、血液の中をめぐって脳に送り込まれます。では、炭水化物をたくさん取れば脳はより活性化するのかというと、そんなことはありません。
炭水化物がブドウ糖に分解されて血糖がピークを迎えるのは、食後30分から1時間です。脳に供給されずに余ったブドウ糖は肝臓でグリコーゲンとしてストックされ、必要に応じて再び血糖になります。でも、この肝臓でのストックも、せいぜい12時間が限度。脳の唯一のエネルギー源である血糖は体内に大量にストックできないのです。
その血糖が1日のうちでもっとも低い状態にあるのが、朝食の直前です。ドライブに出掛ける前にはガソリンメーターを確認し、心もとなければガソリンスタンドに立ち寄るのは当然でしょう。そうした当たり前のことを怠っているのが、朝食を抜くことなのです。
ただし、朝食を食べないことで即、病気になるわけではありません。ですから、朝食抜きが習慣化している人の中には、「食べなくても平気」とか「むしろ食べない方が調子がいい」という人もいます。でも、それは集中力や持続力が低い状態で昼食までの時間を過ごすことに、ただ慣れてしまっているだけなのです。そうした人はあらためて朝食を食べ、低体温・低血糖の状態を脱してから、会社や学校に行くと気付くのではないでしょうか。いかに自分が今まで「もったいない」ことをしていたのかということを。
*:「欠食」とは、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」で、「何も食べない」「菓子、果物など」「錠剤など」に該当した場合のことを指します。 |
| 最適の朝食は、和食の定番メニュー |
では、どういった朝食が脳や体にとって効果的なのでしょうか。朝食の役割は、寝ている間に足りなくなったものを補給することにあります。まず、就寝中には呼吸や発汗によって水分が失われますから、その補給が欠かせません。水でもかまいませんが、オレンジなどの果物のジュースだと脳のエネルギー源である糖分も一緒に補えるのでより効果的です。ただ、砂糖などの舌が甘さを感じる糖分は、血糖値の上昇が急な半面、持続力がありません。砂糖などの糖分では朝食から昼食までの4、5時間を持ちこたえることができず、再び血糖値が下がってしまいます。そこで、持続性のあるエネルギー源として必要なのが、体内でブドウ糖に分解される炭水化物です。
炭水化物の摂取にはご飯でもパンでもいいのですが、粉状より粒状のもののほうがゆっくりと消化・吸収されます。その分、血糖値の上昇もなだらかで、脳への血糖の補給もじわじわと行われるため、ご飯のほうが脳へのエネルギー補給に適しているといえます。ちなみに、「炭水化物は太る」という俗説がありますが、ご飯やパンなどの穀物はエネルギーへの変換がゆっくりなので、体脂肪になりにくいという性質があります。食べ過ぎたら太るのは当然ですが、炭水化物イコール太るというのは偏見に過ぎません。
これで水分と脳の栄養源を補いましたが、次に必要なのが体温の上昇です。熱を作り出す栄養素は3大熱源といわれている糖質、脂質、タンパク質。この中でもより食事誘発性体熱産生に優れているのがタンパク質で、具体的には卵や納豆、チーズやハム、干物などです。
また、ご飯やパンには炭水化物だけでなくタンパク質やミネラルなども多少含まれていますが、それだけでは十分ではありません。炭水化物が糖分に分解されたり、タンパク質が熱源として効率よく機能したりするためには、ビタミンとミネラルも不可欠です。そうした脳や体の性能をグレードアップしてくれるビタミンやミネラルが豊富なものが、野菜や海草類となります。
以上、4つのステップを踏まえると、水分を補給し、脳に栄養を行きわたらせ、体を温め、さらにそれらを効率よく行えるようになります。では、水分、炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラルを上手に摂取できる朝食のメニューはというと、卵かけご飯に、具だくさんのみそ汁。卵の代わりに納豆でもいいし、そこに魚や野菜を1、2品加えると、より栄養のバランスがよくなるでしょう。いずれにしろ、とてもシンプルな和食の定番が、もっとも脳と体に効果的な朝食であるという結論に達するのです。
具だくさんのみそ汁といっても、今はさまざまな冷凍野菜がありますし、ダシの素(もと)などを使えば、それほど手間はかからないでしょう。それでも大変だと感じるならば、レトルトのみそ汁やスープでもかまいません。また、ご飯を炊くのが面倒だったり時間がないという人は、週末にまとめて準備しておくのも手です。1週間分のご飯を炊き、茶碗にラップを敷いて1杯分ずつ小分けして冷凍しておけば、食べるときに解凍するだけで済みます。工夫次第で、3分とかからずに栄養学的にも最適の朝食を用意できます。
朝食を抜くことが長らく習慣化している人は、取りあえずオレンジジュースを一杯飲むだけでもかまいません。簡単な料理すら面倒だったら、通勤や通学のついでにコンビニに寄り、おにぎりや野菜ジュース、あるいは栄養サポート食品を買うのでも結構です。昼食までの時間を少しでも有意義なものにしたいのなら、脳や体に何かしら栄養を与えることを心掛けてください。
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| 「食べる目覚まし時計」としての役割 |
1日は24時間ですが、わたしたちの体内時計は25時間で動いています。もし光や音、温度が一定の条件下で生活すると、人間は25時間を一つの単位として寝起きするようになるのです。そこまで極端でなくても、朝、意識的に起きないと、体内時計が少しずつ後ろにズレていきます。朝食を食べない理由を聞くと「少しでも寝ていたいから」と答える人がいますが、そういう人は体内時計にズレが生じているのでしょう。
先述したように、朝食を抜いて起床時の低体温の状態を長く引きずると、当然、その後の体温の上下動も遅い時間にズレます。また、脳内では「時計ホルモン」とも呼ばれる覚醒(かくせい)と睡眠を整えるメラトニンが分泌されているのですが、起床が遅くなれば、その分泌のタイミングも後ろにズレます。結果として、夜遅くまで眠くならず、起床も遅くなり朝食も食べられず、という悪循環に陥ってしまうのです。
そうしたサイクルを断ち切るためには、まず意識的に余裕を持って早起きすること。そして、ただ起きただけでは脳や体は目覚めてくれないので、朝ご飯をきちんと食べることです。朝食は「食べる目覚まし時計」で、体内時計をリセットしてくれる貴重な役割を担っています。急にそれまでの生活をガラッと変えるのは難しいかもしれませんが、無理のない範囲で少しずつでも朝食の習慣を取り戻すことが大切です。
また、ダイエットを理由に朝食を抜く人もいますが、これも考えものです。人の体はエネルギー切れの状態になると、次に栄養を摂取できるときに必要以上にため込むようになります。そのため、朝食を抜くと昼食や夕食の吸収がよくなり、結果的には肥満につながりかねません。また一般的に朝は蓄えていたエネルギーを燃焼させるグルカゴンというホルモンがたくさん分泌されます。一方、夜は摂取したエネルギーを蓄える方向に作用するインスリンというホルモンの分泌量がピークを迎えます。つまり、朝は太りにくく夜は太りやすいという傾向があるのです。
そうかといって、最近は朝食ではなく夕食を抜く人も増えているようですが、これも問題があります。朝と昼、あるいは昼と夜、2回の食事で1日に必要なカロリーを摂取するのはそれほど難しくありません。でも、1日に必要な栄養素、特に野菜や海草に含まれるビタミンやミネラルを2食で補うとなると、とても手間がかかるでしょう。アメリカには「朝はキングのごとく、昼はプリンスのごとく、夜はホームレスのごとく食べよ」という食生活に関する標語があります。この言葉はグルカゴンとインスリンの分泌のことを考えても理にかなっていますし、1日3回の食事をバランスよく楽しむことの大切さを教えてくれていると思います。
朝昼晩の食生活が乱れると、生活全般のリズムが乱れることになりかねません。逆にいえば、3回の食事のバランスを整えることで、その3食が基本軸となって、自然と生活全般のリズムも規則正しくなっていきます。何より、脳や体を動かすエネルギー源は食べ物しかありません。食べることによって生きる力が生まれるし、今、口にしたものが30分後の自分となるのです。そう考えると、朝食を抜いたり、スナック菓子で1回分の食事を代用したりといったこともなくなるのではないでしょうか。自分を大事に思えばこそ、まずは1日のスタートに朝ごはんをしっかり食べてほしいと思います。(談)
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ほんだきょうこ■日本体育大学女子短期大学講師、NPO日本食育協会ならびに日本食育学会理事などを務める。テレビや雑誌での活躍のほか、プロ野球や相撲といったスポーツ選手への栄養指導など、食に関する幅広い活動を展開。「図解でわかる!からだにいい食事と栄養の大辞典」(永岡書店)ほか著書多数。 |