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「細かな点にまで気を使って価値を追求すること」という意味合いで使われているこだわり。でも、本来は「ささいなことを必要以上に気にすること」という意味なのです。こうした昨今の言葉の変わりようなどについて、このページでは少しだけこだわって考察していきます。
[第9回] 「お名前をいただけますか」のいただけないワケとは?
ことばの問題

Q.次のうち、正しいのはどちらでしょうか?

A 「患者さん」
B 「患者様」

※答えはこのページの下に掲載しています。

 ホテルやデパートの受付などで使われている言い回しに「お名前をいただけますか」があります。わたし自身もそうですが、こう問いかけられて、困惑した経験のある人も少なくないのではないでしょうか。何しろ、名前も、あるいは電話番号も、あげたりもらったりできる性質のものではありません。「お名前をちょうだいできますか」と、より丁寧に言われたとしても同様です。

 では、どうしてこのような変な言い回しが広まっているのでしょうか。接客業を中心に多用されていることから、マニュアル用語ではないかと思います。英語の慣用句「May I have your name?」が直訳に近い形で日本に持ち込まれたのかもしれません。あるいは、「お名前を(お教え)いただけますか」の( )の部分がいつしか抜け落ちたのでしょう。似たような言い方に、「お名前(を伺っても)よろしいですか」があります。これも( )の部分が省略され、よりおかしい言い回しになっていることが少なくありません。「お名前、よろしいですか」と聞かれ、どう答えればよろしいのでしょうか。

 また、クレジットカードの領収書にサインを求められた際などに、「お名前様、いただけますか」と言われることもあります。「名前」に「お」を付けて尊敬の気持ちを表すのは、敬語の用法に鑑(かんが)みて問題ありません。ただし、そこにさらに「様」を付けると、とたんにおかしくなります。

 そもそも「様」は、方向や方面を表す言葉です。例えば「佐藤様」は、もともとは「佐藤さんのいる方向」という意味なのです。つまり、高めるべき相手の人を直接言うことをはばかり、「様」を付けて「その人のいる方向」とすることで、敬称として用いられるようになったものです。「叔父様」「よそ様」など、いろいろな言葉に付きますが、人や人に類するものに付くのが原則。本来、「名前」のような一般名詞には付かないのです。

 より丁寧な言い方をしようと、あるいは「お客様」とも言うのだからと類推し、「お名前様」なる言い方が生まれたのでしょう。ただ、何にでも「様」を付ければいいというものではありません。ましてや、旅館などで目にする「大人様子ども様計3名様」などという表現に至っては、敬称としての「様」ももはや形無しです。(談)
ことばの問題

A.正解は、Aの「患者さん」。

【解説】これは正解というより、強いて言えばAのほうが耳慣れている分だけまし、といったレベルです。本来、「患者」などの言葉には、尊敬表現はなじみません。「病人さん」「急患さん」などと呼ぶのは変でしょう。
 さすがにBは、違和感を抱く人も多いようです。「様」を付けて敬意が高まった分、病院側との距離の隔たりを感じてしまいます。なお、このことは新聞などでも取り上げられ、「患者様」から「患者さん」に戻す病院も増えているようです。


きたはらやすお■筑波大学名誉教授(前学長)。独立行政法人日本学生支援機構理事長。多くの辞典の編纂(へんさん)に携わっているほか、「問題な日本語」(大修館書店)などの編著書も多数。

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