>>瓦版トップ >>172号トップ >>こだわりの日本語
「細かな点にまで気を使って価値を追求すること」という意味合いで使われているこだわり。でも、本来は「ささいなことを必要以上に気にすること」という意味なのです。こうした昨今の言葉の変わりようなどについて、このページでは少しだけこだわって考察していきます。
[第11回] 「お予算」みたいな?っていうか、「ご予算」みたいな?
ことばの問題

Q.次のうち、正しいのはどちらでしょうか?

A 「ご自由に」
B 「ご親切に」

※答えはこのページの下に掲載しています。

 「お」と「ご」の使い分けは、本来、明確な決まりがありました。かつて中国から伝来して日本語となった音(おん)読みをする「漢語」には「ご」を、もとから日本にあった訓(くん)読みをする「和語」には「お」を冠するというルールです。では、現在、こうした使い分けがしっかり行われているでしょうか。

 以前、「問題な日本語」という本をまとめた際に、「お」と「ご」の使い分けに関するアンケートを実施したことがあります。それによると、漢語の「時間」や「食事」に「お」を使うと答えた人がいずれも95%を超えました。逆に、和語に関しては、おおむね原則通りに「お」を冠するという答えが多数を占めたのです。こうしたことから、多くの人は冒頭に挙げた和語/漢語の別を日常的に意識していないということが推察されます。和語/漢語ではなく、「使い慣れた親しみのある日常的な語」に「お」を、「使い慣れない堅い印象の非日常的な語」には「ご」を冠するという、なんとはなしの使い分けを行っているのでしょう。
 ただし、和語でなおかつ日常語の「ゆっくり」に「ご」を使うなど、例外もあります。また、「予算」や「葬儀」はいかにも漢語らしい語ですが、手紙などの改まった場面では「ご」を、会話などでは「お」をと、曖昧(あいまい)な使い分けを行っていることもあるようです。「お」と「ご」は母音が同じで似た音であることから、入れ替えを容易にしているのかもしれません。

 このほか、「きれい」や「美しい」などの形容詞、以前にも触れた「ビール」や「カバン」などの外来語といった、本来は「お」や「ご」を付けなかった語にも最近は必要以上に使う傾向があります。これらは、言葉遣いを美しく上品にする「美化語」が過剰になっていることの表れでしょう。

 言葉は時代とともに変化するもので、たとえ誤用であっても一般化する例は多々あります。この「お」と「ご」の使い分けに関しては原理原則がゆれている状態で、どちらかというと「お」を用いる傾向が強まっているようです。使用に際しては和語と漢語の別を頭の片隅に置きつつ、話し言葉などでは慣用や言いやすさにも配慮し、柔軟な姿勢で使い分けていただければと思います。(談)

ことばの問題

A.(厳密には)どちらも不正解です。

【解説】「自由」や「親切」、あるいは「不便」や「優雅」などの形容動詞の語幹(終止形語尾「だ」を取ったもの)には、本来、「ご」や「お」は付けません。本文で触れた形容詞も含め、状態を表すような語には敬称は付さないのです。
 ただ、これも原則がゆれている状態で、一般化しているものも少なくありません。ですが、あくまでも本来の決まりからすると「ご自由」も「ご親切」も誤りであるということです。


きたはらやすお■筑波大学名誉教授(前学長)。独立行政法人日本学生支援機構理事長。多くの辞典の編纂(へんさん)に携わっているほか、「問題な日本語」(大修館書店)などの編著書も多数。

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