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第六十二代横綱・大乃国として活躍した芝田山親方。現在は自らの部屋を率いる傍ら、角界随一の美食家・甘党としてテレビなどに引っ張りだこだ。そんな芝田山親方の考える「甘いもの」(スイーツ)の魅力とは──。
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| 現役時代からの食べ歩きの成果 |
僕の趣味は現役時代から「食べ歩き」です。巡業で日本全国を回りますから、いろいろおいしいものを食べてきました。そうして食べ歩く中に甘いものもあって、旅先で有名な和菓子屋さんがあると聞けば買い求めたりしていたんです。僕と同じように甘いもの好きの関取と、「これ、おいしいよ」「一緒に食べよう」なんて言って分け合ったりね。
各地を食べ歩く中で出合ったり、あるいはいただいた贈り物の中で「うまい!」と思ったお菓子は、和洋を問わずさまざま。そして、気に入ったお菓子はラベルなどに記してあることをメモしたり、パンフレットがあれば持ち帰ってファイリングしたりしてきました。今もそうしたことを続けていて、都道府県別に三百五十軒を超えるお店をファイルしています。三年前には、そのファイルをもとに百四十種類のお菓子を紹介する本を出しました。
本の中でも書きましたが、「男が甘党で何が悪い」というのが僕のコンセプトです。特に男の人は、料理についてはあれこれ語っても、甘いものの話になるとなぜか女性のようには話が弾まないでしょう。甘いもの好きの男性も少なくないはずなのに、それを公言したがらない。「あんこが大好物」「ケーキが大好き」って、はっきり言えばいい。
僕はデパートの物産展に行くこともあるし、うまそうなお菓子があれば並んででも買います。そういった場所は女性が多いから、体の大きな僕が並ぶと目立つけど、そんなことは関係ない。やましいことをしているわけではないのだから、他人にとやかく言われることはないし、人目を気にする必要なんかありません。欲しいものを買うのに、恥ずかしがることなんかないんです。もっとも、僕が甘党として堂々としていることが、「スイーツ親方」なんて呼ばれることの一因になったのかもしれませんが……。
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| 忘れられない母のあんこの味 |
僕が生まれ育ったのは、北海道の十勝支庁管内にある芽室(めむろ)町。農業が盛んな町で、僕の実家も農家です。小豆や大豆、ジャガイモやトウモロコシなど、いろいろな野菜や果物を作っていました。わが家の食卓に並ぶのは、そうした野菜などをおふくろや祖母が料理したものです。小さいころはイモの煮っころがしなどが続くと、不平を漏らしたこともあったかもしれません。でも、今から振り返ると、とても恵まれた食生活だったと感謝しています。僕が講演などでよく話すのが、五歳までに舌が覚えた味は一生忘れないということ。幼少のころに口にするものって、とても大切でしょう。今はそういうことに無自覚な人も多いようなので、特に子育て中のお母さんにはちゃんと子どもに手料理を食べさせるようにお願いしたいです。
僕が子どものころに食べたもので思い出すのが、おふくろお手製のあんこ。自分の所の畑で栽培した小豆で、お盆と暮れにあんこを炊いたんです。それで、ぼた餅なんかを作ってくれてね。母方の祖母は残ったあんこで、ヨウカンも作ってくれました。おふくろのあんこも祖母のヨウカンも、本当にうまかったです。
今、十勝産の小豆といったら立派なブランドでしょう。僕があんこにうるさくなったのも、子どものころから本当においしいあんこを口にしてきたことと無関係ではありません。おふくろのあんこは忘れられない味ですし、今、僕が和菓子を食べるときの基準というか物差しになっています。
子どものころから、自分でも多少は料理をしました。両親が朝早くから暗くなるまで働いていたので、食事は主に祖母が支度してくれたんです。ただ、祖母のレパートリーにはない自分の食べたいもの、スパゲティやポテトサラダなんかはできる範囲で作りました。それと、学校から帰って「お母さん、おやつ!」なんて言っても母親は畑にいるわけでしょう。今みたいにコンビニで何かを買うなんて時代でもないし、食べたかったら自分で作るしかないんです。ホットケーキや蒸しパンの専用の粉を使っての簡単なものですけどね。火加減が分からないのでホットケーキを焦がしてしまい、黒くなった部分をはがしながら食べたこともあります。回数を重ねるうちに上手にできるようになり、バターを載せたりハチミツをかけたりして食べました。スイーツなんてたいそうなものじゃないですよ。だいたい僕らが子どものころにスイーツなんて言葉もなかったしね。
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| あんこは「甘いから、おいしい」 |
その後、相撲の世界に入ってからですが、遊びの延長のような感じでケーキを作るようになりました。大関時代にお菓子作りの本を見て、「面白そうだな」と作ったのが最初です。結婚してからは、子どもの誕生日にケーキを作ったこともあります。巡業などで家を空けることが多いので、ケーキ作りを通じて子どもとコミュニケーションを図ったりね。お菓子作りのためにレシピ本を買ったり、道具をそろえたりもしました。
そうしたことを聞き及んだテレビ関係者から、番組への出演依頼があったんです。その番組では、有名な洋菓子店「モンサンクレール」の辻口博啓(ひろのぶ)シェフに、僕の作ったロールケーキを試食していただきました。もともとは辛口の評価をもらい、それからプロの方にケーキ作りを学ぶというのが番組の趣旨だったんです。でも、意外にも辻口さんは「これはおいしいね」とおっしゃった。プロの方に殊のほか高い評価をいただき、うれしかったですね。
テレビといえば、グルメ番組のレポーターが和菓子を食べて「甘さ控えめでおいしい」なんてコメントを言うことがあります。あれが僕にはさっぱり理解できない。甘くなかったら、おいしくないでしょう。甘さ控えめが売りのお菓子もあるけれど、それはお店の方がいろいろ工夫や努力をしてのことだと思うので否定はしません。ただ、ほかと食べ比べをしたわけでもないのに、「これは甘さ控えめ」なんて評価を下すのはおかしいと思う。特にあんこは「甘いから、おいしい」なんですよ。
あんこと一口に言っても、たくさんの種類があります。砂糖をはじめ、水アメやハチミツを加えたものもあるし、黒糖を使ったものもあります。僕のおふくろもそうしていたと思うけど、甘さを引き出すために隠し味で塩を使うんです。ただ、砂糖を入れればいい、甘ければいいというものではないんですね。
食感だって、なめらかなものからザラッとしたものまでさまざまです。釣り合いや調和が大切なのは食べ物に限ったことではありませんが、あんこも甘さや食感の絶妙なバランスがあって、おいしさを感じさせるわけです。そうしたことを知りも考えもせずに「甘さ控えめで、おいしい」なんて、何を言ってるんだと僕は思うんです。
同じお店の和菓子でも、僕はA支店よりB支店の方をひいきにするといったことがあります。お店にもよりますが、作っているところが違うと味も変わってくることがあるんです。だから、同じ名前のお店でも「豆大福なら、こっちの支店だな」と僕の好みで判断を下しています。食べ比べないと気付かないことだし、そこまでこだわる必要はないと思わなくもないですけどね。
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| 甘いものがもたらしてくれるもの |
僕は決してグルメ評論家などではありません。食べることが好きで甘党の相撲部屋の親方です。だから、テレビや雑誌でコメントを求められると、うまければ「うまい!」と正直に言います。ただし、いくら正直にコメントするとはいっても、「まずい」という言葉は絶対に言いません。そこはやんわりと「僕の口には合いませんね」とコメントするだけにとどめます。
食材を育てた農家などの方々、パティシエやコックといった方々、そういった方々が一生懸命に作った結果、お菓子なり料理なりを味わうことができるわけです。まして、それなりの期間にわたって売られ続けているお菓子であれば、それを買い求めている、おいしいと思っている人もいるわけでしょう。僕以外に「口に合う」人がいるわけです。僕はたまたまその日の体調や天候の具合などで「口に合わなかった」だけかもしれない。それを「まずい」の一言で片付けるなんて、失礼にもほどがあると思うんです。
僕は子どものころから食べることが人一倍好きだったし、それと同時に食べ物を大事にするという思いも培ってきました。それには、いつも野菜作りに精を出していた両親の影響もあるでしょう。だから、おいしいものを口にしたときは、その食べ物を心(しん)からホメてあげたいという思いも強いんです。
そうした考えがあるから、お菓子を一個選ぶのでもゆるがせにできない。間に合わせで「これでいいか」なんて選ぶようなことはしません。ましてや贈り物をするときなど、自分が食べたこともない、うまいかどうかも分からないものなど贈りようがない。相手のことを考えながら、僕が今までに味わったものでどれが最適か熟慮します。和菓子でも洋菓子でも季節感を取り入れたものがたくさんあるから、気候風土を考えに入れるのも当然です。
バームクーヘンをいただいたお礼にバームクーヘンを贈るのは変だし、コシヒカリの産地にお住まいの方にコシヒカリを贈るのはおかしいでしょう。極端な例だけど、それと似たようなことをする人もいなくはないですから。ともかく、自分がうまいと思うものを相手の方にも食べてもらいたい。そうやって、うまいものを食べる喜びを分かち合うのはうれしいもんですよ。
「いつもおいしいものを食べて、幸せそうですね」なんて声を掛けられることもあるけれど、僕だっていろいろあるんです。弟子や部屋のことで頭を悩ませたりね。皆さんだって、そうでしょう。うれしいことや楽しいことだけじゃなく、いろんな苦労や悩みもある。そういう中で、それを口にしている短い時間だけかもしれないけど、甘いものを食べたときに心がホッとする。食べ物は生きていく上で欠かせないもので、酸っぱいものや辛いものなど、いろいろな食べ物があります。中でも甘いものは、食べた人の心を和ませてくれたり温かい気持ちにさせてくれたりするでしょう。喜びや幸せを感じさせてくれることもあるし。そういうものなんです、甘いものって。(談)
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しばたやまやすし■一九六二年、北海道生まれ。一九八七年夏場所にて全勝で初優勝を果たし、同年秋場所後に横綱に推挙。一九九一年の引退後、一九九九年に自らの部屋を開き、弟子育成にまい進。一方で角界一の美食家・甘党として知られ、「第62代横綱大乃国の全国スイーツ巡業」の著書を持つほか、テレビなど多方面で活躍している。
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