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Photography:Matsubara Takashi
 弥生台駅から徒歩二〇分ほどの場所にある区画貸し市民農園「そうてつスローライフガーデン」(以下、スローライフガーデン)。四十八区画ある園内では、利用者が思い思いに野菜作りを楽しんでいる。そこで、お二人の利用者に野菜作りの魅力などについて話を伺った。

富士山を背に農作業する気持ち良さ
 最初にご登場いただくのは、鈴木隆さん。二〇〇四年にスローライフガーデンが開園したときからの利用者だ。

 わたしは以前、近所にある横浜市の市民農園で野菜作りをしていたんです。そこは二年契約なのですが契約更新ができず、契約終了後に一年置いてまた申し込む必要がありました。それで再度申し込んだのですが、応募者が多くて抽選になり、結局、選に漏れてしまった。そんなことがあって野菜作りをあきらめかけていたときにここの開園を知り、申し込んだんです。

 わたしの野菜作りは行き当たりばったりみたいなもので、計画などは立てていません。それでも、例えば今年、夏野菜で失敗しても、来年の夏にまた挑戦しようと思います。だから、スローライフガーデンのように希望すれば何年でも契約を更新できる農園を望んでいたんです。

 わたしは四年前に退職しましたが、その少し前から田舎暮らしにあこがれていました。ただ、妻にそんな気は無いし、わたし自身も本気で考えているわけではありません。実際に田舎暮らしをするとなったら大変なことも多いですから。その代わりといいますか、野菜作りで自分のあこがれを少しだけ実現している面が少なからずあるんです。特にここは冬になると、天気のいい日には富士山や丹沢山地が望めます。草むしりなどをしていてふと顔を上げたときに富士山が見えると、本当に気持ちがいい。わたしは自宅の庭でもちょっとした野菜を作っていますが、やはり広々とした農園での作業は格別ですよ。

 それと、面倒に感じる人もいるのかもしれませんが、わたしには草むしりも楽しい時間です。汗を流しながら必死で草を取り除いていると、無心になれる。一時間ほどの間ですが、その無心になれる時間が妙に気持ちいいんです。そうして作業が終わってキレイになった区画を眺めると、手応えを感じるし、爽快な気分を味わえますからね。

食べるまでに何度も味わえる喜び
2、3日おきに農園に通うという鈴木さん。取材時にはナスとトマト、ゴーヤがちょうど収穫時期を迎えていた
 野菜作りをしていて困るのが、作物ができすぎてしまうこと。わたしなんてシロウトですから大したこともしていないのですが、家族では食べきれないほどブロッコリーもトマトもできるんです。それで知り合いの方におすそ分けするのですが、中にはお礼にお菓子などを贈ってくださる方もいます。それはありがたいことなのですが、わたしも妻も恐縮してしまうんです。こちらは趣味で野菜を作っていて、うちで食べきれない分をおすそ分けしているだけなんですから。そうしたことが何度かあったので、種を買ってきても一袋分を全部いっぺんに使わない、いわば少量生産に切り替えました。

 その分、農地に余裕ができるので、ものは試しでいろいろな野菜を作っています。それも行き当たりばったりで、よその畑で作っているのを見て、自分でもやってみるといった感じです。虫に食われたりといった失敗もあるけれど、たいていはうまくできます。隣接している区画の方に迷惑を掛けてもいけないので、農薬はまったく使っていません。虫や鳥にやられても、みんな共生しているんだって考えればあきらめがつきますから。

 二年前だったか、東京の親戚(しんせき)にキャベツとブロッコリーを送ったことがあります。そうしたら、お礼の電話を掛けてきたのですが、心配そうに「中から虫が出てきました」と言うんです。わたしが冗談半分で「無農薬の証明に入れておきました」といったら、その親戚も笑ってね。後日、「とてもおいしかったです」って再度お礼の電話をもらいました。

 わたし自身、身びいきを差し引いても、どの野菜も本当においしいと思います。たいていは収穫してすぐ食卓に上りますが、取れたての野菜は味が違うんですよ。もちろん食べることもそうですが、野菜作りは何回も喜びを感じられるでしょう。種をまいて芽が出て、花が咲いて実がなって、色付いたら収穫する。それぞれの過程で喜びを味わえるし、種まきから収穫までを自分の手で行っているから一層おいしく感じられるのかもしれませんね。

 わたしは昭和十六(一九四一)年に東京で生まれ、戦中は千葉へ疎開していました。食料の乏しい時代ですから、自宅の庭で野菜を作っていたんです。わたしはまだ小さかったから、草むしり程度しかしていません。厳しい時代ですから両親は必死に働いていたのでしょうが、わたしは無邪気に土いじりを楽しんでいた覚えがあるんです。六十歳を過ぎてから野菜作りを始めたのは、そうした記憶が少なからず影響しているのかもしれません。

 これからも体力の続く限りは、野菜作りを楽しみたいと思っています。とはいえ、特に気負ってやるようなことでもないし、せいぜい作り過ぎに気を付けるぐらいですけどね。(談)

日当たり良好で、風通しも抜群
 続いてのご登場は、松之木文夫さん。松之木さんは四年前、五十七歳のときにふと思い立って野菜作りを始めたそうだ。

 単純に、それまでやったことのない土いじりがしてみたいと思ったんです。近所を中心にいくつか市民農園に当たったのですが、どこも満杯でした。そんなとき、知人の紹介でスローライフガーデンの存在を知ったんです。実は、ここに入ることが決まって十日ばかりしたら、近所の地主の方のご厚意で五〇坪ほどの土地を無料でお貸しいただけることになりました。だから、期せずして二カ所で野菜作りを始めることになったんです。

 スローライフガーデンは周囲も農地で開けているから、日当たりや風通しがいい。自宅の近所の畑は住宅街の中にあるので、その点でちょっと難があるんです。以前、ここでたまたま同じ時間に作業をしていた方から、「風が通り抜けることが野菜作りには重要だから、風向きも気にした方がいいですよ」と声を掛けられました。僕はそうしたことに無頓着でしたが、ここの野菜の発育がいいのは太陽や風の影響が大きいのでしょう。一区画が二五平方メートルと広さもちょうどいいし、僕のような初心者が野菜作りを楽しむには最適の環境だと思います。

多くのものを得られる最高の趣味
この日はサラダボール1杯分ほどのミニトマトを収穫した松之木さん。「イエローアイコという品種を試したんですが、うまくできました」
 スローライフガーデンでは十本の畝(うね)を作っていて、畝ごとに何を育てたか履歴を残しています。自宅近くの畑も二十六ブロックに分けて、それぞれ何を作ったか記録しているんです。種の袋に書いてあったのか本で読んだのか忘れましたが、連作障害というのがあります。それを防ぐために、過去に何を作ったか、記録しているんです。自分が食べたいものや興味のあるものを作っていて、この四年の間に二カ所で五十種近くの野菜を作りました。失敗もなくはないけれど、意外と野菜作りは簡単なんです。

 僕が畑をやっていると言うと、たいていの方は「大変でしょう」とおっしゃいます。でも、趣味としてやっているので、全然そんなことはないんです。もちろん、作物や品種によっては、シロウトでは太刀打ちできないというか、丁寧に手間を掛けて作らなければいけないものもあります。ただ、ダイコンやトマトなどは勝手に生えてくるといっても過言ではないほど手軽に作れます。実際、植えた覚えはないのに、どこからか種が飛んできたのか、トマトや赤ジソがいつの間にかできていたこともありました。

 一番最初に作ったのは、ダイコン、ブロッコリー、レタス、ハクサイなどで、全部収穫できました。生まれて初めて自分で作った野菜を食べたときは、それはうれしかったです。うちには子どもがいないので、夫婦二人では食べきれないほど収穫できます。時期にもよりますが、家で食べる野菜は自分で作ったものでほとんどまかなえるほどです。タマネギは保存が利くからいいのですが、ほかの野菜で食べきれない分はご近所に譲ります。ただ、不格好な野菜などは人に譲ることもできません。仕方なくというのも変ですが、一週間ほど毎日同じ野菜を食べ続けることもあります。

 失敗という失敗はありませんが、虫や鳥の被害はあります。特にキャベツなどの葉ものは虫の大好物で、放っておくと僕たち夫婦が食べる分が無くなってしまうので、必要最低限の農薬は使っています。先日もあと少しで収穫というところで、トウモロコシが鳥に食べられてしまいました。感心するほどキレイに一粒残らず食べられたんです。あれはさすがに悔しかったですね。

 野菜作りを始めた当初は会社に勤めていたので、畑に出るのは基本的に週末のみ。夏場の雑草がすごい時期だけ、出勤前に作業していました。昨年、退職してからは、ほぼ毎日散歩がてらここに足を運んでいます。ただ、それは様子を見るだけで、実際に作業をするのは二、三日置きです。草むしりもまめにやっていれば、そんなに面倒ではありません。畑で作業する時間も三十分ほどですし、完全に趣味として楽しんでいます。趣味としては最高でしょう。適度に体を動かして、食べるものを手に入れることができて、夫婦の会話も増えますから。食卓で料理を口にしながら、「今年のダイコンはイマイチだな」なんて夫婦で話してますよ。

 農家の方は季節ごとに決まった量をコンスタントに出荷しなければいけないし、大変なことも多いでしょう。でも、僕らシロウトは失敗しても「あ〜あ」って悔しがって済むわけです。もし収穫量がゼロでも、八百屋さんに行けばいい話ですから。それこそ通常だったら売り物にならない不格好な野菜でも、自分で作っているから三割増くらいでおいしく感じられますし。少なくとも僕は、この四年間、やってて良かったと思うことばかりですね。(談)

そうてつスローライフガーデン
所在地/横浜市泉区中田町2862
一区画/25平方メートル(2.5×10メートル)
設備/簡易休憩所・倉庫・野菜くず捨て場
料金/管理運営費26,250円(年額・税込み)・
   会費(共益費)3,150円(年額・税込み)・保証金10,000円

●詳しくは下記までお問い合わせください。
 相鉄不動産 スローライフガーデン担当
 TEL.045(319)2172[平日9時30分〜17時30分]
 http://www.sotetsufudosan.co.jp/slowlifegarden/

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