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「細かな点にまで気を使って価値を追求すること」という意味合いで使われているこだわり。でも、本来は「ささいなことを必要以上に気にすること」という意味なのです。こうした昨今の言葉の変わりようなどについて、このページでは少しだけこだわって考察していきます。
[第23回] 「行ったときないです」って、言ったときないですか?
ことばの問題

Q.次のうち、正しいのはどちらでしょうか?

A 「言う事を聞かない」
B 「言うことを聞かない」

※答えはこのページの下に掲載しています。

 若者同士の会話を聞くとはなしに聞いていて、「海外に行ったときがない」「あの店で一度も飲んだときがない」といった言い回しを耳にしたことがあります。耳を疑うなどというほど大げさなことではありませんが、やや耳障りに感じました。それぞれ「海外に行ったことがない」「あの店で一度も飲んだことがない」と言うべきところだからです。

 「とき」も「こと」も抽象度が高く、単独では実質的な意味はありません。これらは形式名詞と呼ばれ、修飾語を付けることで実質的な意味をはっきりさせて使うものです。「つらいときはない」といった場合には「つらい」という〈時間〉の存在を、「つらいことはない」といった場合には「つらい」という〈事柄〉の存在を言い表しています。いってみれば時間と事柄の違いだけで意味はほとんど変わらないのですが、まったく同じ意味というわけではありません。ですから、「とき」と「こと」を入れ替えてしまうと、冒頭に挙げたようなおかしな言い回しになってしまうのです。

 「海外に行ったことがない」も「あの店で一度も飲んだことがない」も、いずれも〈経験〉を言い表しています。こうした〈経験〉の表現に、「〜したときがない(ある)」と〈時間〉の存在を示す言い方をするのは無理があり、明らかな誤りです。ここは正しく「〜したことがない(ある)」と言うべきです。

 ただし、あらゆる場面で「〜したときがない(ある)」という言い回しが不可なわけではありません。例えば、「彼と同じ会社に勤めたときもある」などと言うことはできます。過去における時期や時代を指し示す〈時間〉の存在の表現として「〜したときがない(ある)」を用いる分には問題ないのです。あるいは、こういう時期や時代を指し示す〈時間〉の存在の表現から、〈経験〉の存在を言い表す言い方が登場したのかもしれません

 若者の肩を持つわけではありませんが、「海外に行ったときがない」でも、言わんとしていることは分かります。とはいえ、これは明らかに誤った言い方です。わたし自身、そんな言い回しをしたことはありませんし、「海外に行くより先にすべきことがあるのでは」と忠告の一つもしたくなるときもあります。(談)

ことばの問題

A.正解は、Bの「言うことを聞かない」。

【解説】当用漢字が実施されて以降、新聞などでは「事」と「こと」が厳密に使い分けられるようになりました。Bのような(本文で説明した)形式名詞は「こと」とかなで、「事を構える」や「事始め」など名詞として実質的な意味を表す場合は「事」と漢字を用います。
 なお、「約束事/約束ごと」など漢字とかなで揺れている表記もありますが、「事」と「こと」の使い分けにはいちおう明確なルールがあることを頭に入れておいてください。


きたはらやすお■筑波大学名誉教授(元学長)。独立行政法人日本学生支援機構理事長などを歴任。多くの辞典の編纂(へんさん)に携わっているほか、「問題な日本語」(大修館書店)などの編著書も多数。

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