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写真提供/テレビ朝日(以下同)
「ちい散歩」(毎週月〜金曜 9:55〜) |
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地井武男さんの「散歩っていいですよ〜。さあ、散歩に出掛けましょう!」の掛け声とともにスタートする人気テレビ番組「ちい散歩」。番組で地井さんは基本的に毎回一つの街を訪れて散歩を楽しんでおり、三百五十を超える街を訪ね歩いている。そんな地井さんが考える、「歩く」ことの魅力や「街歩き」の醍醐味とは──。 |
| 十五年続く趣味のウオーキング |
僕は十五、六年前からウオーキングをしています。それ以前は走っていたのですが、ある本と出合ったんです。その本には、体を鍛えているつもりでも、あまり無理をするのは良くないといったことが書かれていました。その本を読んだのが、五十歳を越えるか越えないかといったころ。僕は若いころからテニスなどをして体を動かすことが好きだったのですが、気持ちは若いつもりでも体力は衰えていく。でも、健康のことは気になる年ごろです。そこで考えを改め、走ることから歩くことに切り替えました。
今、「ちい散歩」の収録が週に三日ほどあり、いろいろな街を歩きます。それ以外の日も、自主的にというのもおかしいけど、週に二日ほど趣味のウオーキングをしているんです。何もしない日は一日三千歩ほどしか歩きませんが、最低でも一日八千五百歩は歩こうと心掛けています。毎日、万歩計を身に着けていますが、たとえ着けていなくても「今日は何歩だな」といったことは、だいたいの感覚で分かるようになりました。
趣味のウオーキングでは一時間、一時間半、二時間、三時間と、時間別にコースを決めています。それで、その日のスケジュールや体調に合わせて選ぶんです。前日、遅くまで仕事をして疲れているから一時間、たくさん睡眠を取って調子もいいから三時間、といった具合に、無理せず自分の体と相談しながら歩いています。ウオーキングの定番コースは一時間から三時間まで時間別に四種類ですが、行き先別でいうと十コースくらいあります。「最近、ごぶさたしているから、あの公園に行こう」とか「そろそろ桜の季節だから、あの川べりを歩こう」とか、その日の気分などによってもコースを変えるんです。そうやって自分なりに緩やかなルールを決めているから、飽きずにウオーキングを続けていられるのかもしれませんね。
ウオーキングが健康にいいことは日々実感していますが、僕は医者ではないので詳しいことは分かりません。ただ、歩き終わって帰宅し、お風呂に入ると気持ちがいいし、そのあとに飲むビールがうまい。ウオーキングが、僕の毎日の暮らしにメリハリを与えてくれているのは確かだと思います。
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| 路地裏からの眺めを見せる意味 |
四年ほど前、テレビ局のスタッフから「街歩きの番組をやりませんか?」と声を掛けていただきました。その時点で僕は十年以上ウオーキングをしていましたから、一家言というと大げさだけど、自分なりの散歩に対する考えがあったんです。そこで、「こんなことをしたい」というプランやアイデアをいくつかプロデューサーやディレクターに伝えました。そんな風にして、「ちい散歩」という番組が始まったんです。
路地があったら入る──、これも僕が最初に提案したアイデアです。路地裏は家庭における台所みたいな場所で、そこに暮らす人々の営みや街のたたずまいといったことがダイレクトに感じられます。そうした場所に足を踏み入れることが面白いし、楽しいと思うんです。
特に都会が顕著ですが、表通りに新しいお店や建物があっても、一歩、路地に入ると古くからの商店街や家並みが広がっているところが少なくありません。僕はよく「新旧が引っ張り合っている」という表現を使うのですが、新しいものと古いものとが併存していると街が生き生きしているように思える。古いお寺の向こうにガラス張りの数十階建てのビルが見えたりすると、街の奥行きのようなものも感じます。僕は視聴者の方が「はあ、そういう街なのか」ってため息をつくような場所を案内することが自分の役目だと自負しているので、路地からの街の眺めを重視しているんです。
趣味のウオーキングは気ままに楽しめばいいけれど、番組となるとその街を視聴者にどう見せるかということも大きなポイントです。僕がかつて出演していた「太陽にほえろ!」という刑事ドラマでは、路地のシーンがよくありました。犯人を追って路地を走り抜けたり、尾行中の刑事がカメラに顔が写るギリギリまで体を軒先に隠したり。そうしたシーンを「ちい散歩」で再現することもあります。遊び半分ではあるけれど、路地をどう見せるかという工夫の一つなんです。視聴者には「いい大人がバカなことやってるな」って思われているかもしれませんが──。
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| 食べ物の味よりも魅力的なこと |
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道行く人に積極的に声を掛けるのも「街を知るため」 |
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商店街があれば立ち寄り、ちょっとしたものを買い食いするというのも、僕が提案した「ちい散歩」のルール。企業秘密のようなことを明かすと、実は食べることは二の次で、その食べ物を作っている人と楽しい会話を交わすことが目的なんです。僕がおでんを食べて「うまい!」と言っても、視聴者にはそのおいしさがいまいち伝わらないでしょう。それよりも、おでん屋さんを営む老夫婦がどういう縁で結婚し、商売を始め、今に至るのかといった話を聞く方が視聴者も興味深いと思います。例えばつみれ一個の中にも豊かな人生や物語が詰まっているし、それを伝えることで結果的に視聴者にも「あのおでんを食べてみたいな」と思ってもらえたらいいなと考えているんです。だから、大きな声では言えないけれど、食べ物がおいしいかどうかはそれほど重要ではありません。その街に魅力的な人がいることを、番組を通して伝えたいんです。
とはいえ、食べ物のおいしさを伝えるための工夫もしています。「ちい散歩」では、僕とディレクターやカメラマンが食べ物を分け合ったり、時には奪い合ったりするシーンがよくあります。僕が一人でもそもそ食べるより、みんなでわいわい食べている方が、視聴者にはおいしそうに感じられるのではないでしょうか。効果のほどは定かではありませんが、カメラマンが味を知って食べ物を写すのとそうでないのとでは、映像も変わってくるでしょうし。「スタッフにも食べさせて、優しいんですね」などと、番組を見た方から予想外の好意的な感想をいただいたこともあります。ここだけの話、お腹いっぱいで食べきれなくて、残すとお店の人に悪いから、スタッフに分けていることもあるんですけどね。
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| 目を凝らすと分かる街ごとの色 |
「ちい散歩」はスタート当初、東京都内の街々を散策していました。それが番組の回数を重ねる中で、神奈川や千葉、埼玉や栃木などに足を運ぶ機会も増えています。郊外というと、ファミリーレストランや大型ショッピングセンターがあって街の表情が画一化しているなんてよくいわれるでしょう。でも、実際に歩いてみると、街の成り立ち方や生活様式がそれぞれ違うから、必然的に街ごとに違った色がある。日光などの観光地はもちろん、そうではない街にも、歩けば歩いただけ発見があって楽しめるんです。
相鉄線沿線では海老名を番組で訪ねましたが、あの街は歴史を大切にしています。駅前に復元された七重の塔が建っていて、そこからしばらく歩くと相模国分寺の跡地が広がっている。その近くには、確か樹齢五百年を超える大きなケヤキがありました。同じケヤキでも、史跡のそばの大木と都会や住宅街の街路樹では、当然ながらたたずまいが違います。そうした細かな違いや街ごとの特色をつぶさに見て歩くことも、散歩の面白さではないでしょうか。極端な例ですが、僕はカメラマンにゴミの集積所を撮ってもらうこともあります。実際に放送するかどうかはディレクターの判断ですが、ゴミの出し方がキレイなら、それはその街の長所だと思うからなんです。
今、「ちい散歩」では毎週水曜日に「ひと駅散歩」という企画を行っています。文字通り、一駅区間を散歩する企画です。電車に乗っていて、「あの赤い屋根の建物は何だろう?」などと気になることがあると思います。あるいは、「あの煙突が見えたから、もうすぐ次の駅だ」などと目印にしている建物もあるでしょう。でも、普通の人はわざわざそこを訪ねるようなことはほとんどしないと思います。「ひと駅散歩」では、そういう電車の窓から見ていて気になった場所を訪ねるんです。実際に訪ねてみると、落胆することも少なくありません。でも、たとえそうした場所でも、わざわざ訪ねることに妙な面白さがあるんです。おかげさまで「ひと駅散歩」は好評なんですが、多くの人にその妙な散歩を一度試してほしいと思っています。
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| 気持ち一つで無限に広がる散歩の魅力 |
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「子どものころから絵を描くことが好きだった」という地井さんの絵も「ちい散歩」の魅力の一つ |
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僕は「ちい散歩」で毎回、番組の最後に絵を描いています。以前、渡哲也さんから「あの絵は宿題なの?」と聞かれましたが、家に帰ったら描けません。現場のノリ、街の雰囲気の中だからこそ描ける。実際、十分ほどで描き上げています。芸術作品ではないので描く題材などは何でもいいと思っているし、番組で描いているのはあくまでも散歩の記憶であり記録です。だから、街の名前を聞いても思い出せないことがあるけれど、絵を見れば瞬時に出会った人々や街のにおいなども思い出せます。
番組の終わり、散歩の終点に至るまでは何があるか分かりません。すごい人に出会ったり、美しい景色に巡り合ったりするかもしれないし、何もないかもしれない。本当に行き当たりばったりの出たとこ勝負。でも、計算できない、もくろみの立たないところも散歩の面白さでしょう。どんなものを目にすることができるのか、どんな人の話を聞けるのか。僕は散歩の出発前にワクワクドキドキしているし、いつも新鮮な気持ちで街を歩いています。
そもそも散歩に「こうじゃなきゃいけない」なんて決まり事はないし、楽しみ方は無限でしょう。その人がその人なりに街歩きを楽しめばいい。「○×神社に行ってみよう」と思ってブラッと家を出ても、面白そうなものを見つけて寄り道してしまい、神社にたどり着けなくてもいいじゃないですか。誰にも迷惑を掛けていないし、誰かから怒られるわけじゃないですから。
例えば犬好きなら、家を出て一、二時間で何種類の犬に何匹出合えるかを楽しみに歩いても面白いかもしれません。甘いもの好きなら、近隣で評判の和菓子屋を訪ね歩いてもいい。雨の日は外出を敬遠しがちだけど、雨に濡れる木々や雨に打たれる池など、雨天でしか楽しめない景色もあります。そんな雨天の景色に心動かされる人なら、雨の日の散歩だって楽しいはずです。
ただ漫然と歩いても面白いことはないかもしれません。でも、興味やテーマを持って歩くと、自分を刺激してくれることが街にはたくさん転がっている。その街に転がっている面白いことを見つけるのが散歩の醍醐味なんです。(談)
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ちいたけお■一九四二年、千葉県生まれ。俳優座十五期生を経て、一九六八年に映画「斬る」でデビュー。以降、映画やドラマ、バラエティー番組やラジオなど、多方面で活躍。二〇〇六年四月に始まった「ちい散歩」ではナビゲーター役を務めているほか、番組内で描いた絵をまとめた「ちい散歩 地井さんの絵手紙」(新日本出版社)も好評を博している。同番組の情報は、下記ホームページを。
http://www.tv-asahi.co.jp/sanpo/ |