 |
|
  |
 |
|
|
「シューフィッター」という資格をご存じだろうか。靴と足に関する専門知識や技能を基にお客さまに合う靴を提案・販売する、いわば”靴選びの専門家“の認定資格だ。現在、全国の専門店やデパートなどに三千人超のシューフィッターがいるという。そのシューフィッターを養成・認定しているのが「足と靴と健康協議会」。同協議会の事務局長で、自身もシューフィッターの資格を有する俣野好弘さんに、歩くために大切な靴選びや足の健康について話を伺った。 |
|
試し履きの際にチェックすべきこと |
|
靴を購入する際に、必ずするのが試し履きです。では、どのように試し履きをしているかというと、イスなどに腰掛けたままか、立ち上がって軽く足を動かす程度という人が多いのではないでしょうか。その程度の試し履きで靴の購入を決める人は、お店にとっては最高のお客さまです。でも、靴選びの観点からすると誤り。靴は履くだけでなく歩いてみないと、自分の足に合っているかどうかが分かりません。わたしたちシューフィッターも、お客さまの歩き方や姿勢を見て判断しています。靴によっては歩くとシワが寄ることもあるので、いい顔をしない店員さんもいるかもしれません。でも、五メートルほどで構わないので、お店の中を歩いて自分の足と靴との相性を確かめてください。
靴を試し履きして歩く際に、チェックするポイントが二つあります。一つ目は、つま先が靴にぶつからないこと。骨の構造などから、足の大きさは地面から離れた所にあるときが最も小さく、両足で立つとそれより大きくなり、片足で立ったときに最大になります。ですから、立った状態では「つま先がきつくないから大丈夫だろう」と思っても、歩いてみるとつま先が靴にぶつかることも少なくありません。それは、つま先と靴との間のゆとりが不十分な証拠です。どんな種類の靴でも、つま先と靴との間に一センチメートルほどは余裕のあるものを選ぶように心掛けてください。
二つ目のチェックポイントは、かかとです。つま先に余裕を持たせるのとは逆に、かかとは靴とぴったり合っていなければいけません。試し履きして歩いてみて、かかとが脱げそうになる靴は問題です。ヒモやベルトなどの付いた靴であれば、それを調節して甲とかかとをしっかり靴に固定してください。ヒモやベルトのないパンプスなどは、かかとをきちんと靴に合わせます。その状態から靴の中で足をできるだけ前進させてから、靴とかかとの間に手の指を入れてみてください。人差し指が奥まで入るようでは緩過ぎですが、逆に指先がまったく入らないようではきつ過ぎです。靴とかかとの間に小指の先が少し入るくらいがちょうどいい状態といえます。その上で歩いてみて、足のどの部分にも違和感がなければ、その靴と足との相性は問題ないと思います。
靴選びに関しては、多くの人が緩いものを選ぶ傾向にあるようです。ただ、履いていて楽な靴と緩い靴は似て非なるもの。単なる緩い靴を履き続けていると、足の健康を損なうことになりかねません。そうしたことを防ぐためにも、ぜひ試し履きのときには実際に歩き、つま先の余裕とかかとのフィット感を確認しながら足と靴との相性をチェックしてください。
|
| 同サイズの靴でも安心できないワケ |
あるデパートで消費者相談を兼ねた靴の即売会を行ったときのことです。通常よりも長い時間を掛けて試し履きをしているご婦人がいました。気になってわたしが声を掛けると、その方は「足に合うので、購入しようと思います」とお答えになった。「ただ」と続けて、「親指の辺りに当たるところがあるんですけど、革だから伸びますよね」とおっしゃったのです。わたしは「それは買わない方がいいです」と返答し、すぐに同じ商品で同じサイズの別の靴を差し出しました。その靴を試し履きしていただいたところ、ご婦人は驚かれて「こっちの靴はどこにも当たらない」とおっしゃった。こうしたことはよくあることで、当然といえば当然の話なのです。
同じ商品の同じサイズの靴が十足あれば、十足とも違うものと考えてまず間違いありません。ほとんどの靴は手作業で作られています。工程によってはコンピューター制御のミシンを使うこともありますが、基本的には職人さんの手作りです。それは日本製でも外国製でも変わりません。そして、人間の手で作られている以上、靴ごとに差が生じます。その差はわずか〇.数ミリメートル、大きくても一、二ミリメートルです。でも、たとえ〇.数ミリメートルの出っ張りでも、足は敏感に感じ取ります。それでも大抵は履いているうちに慣れるでしょうし、健康上の問題に直結する可能性は高くありません。ただ、健康を損なう可能性がゼロではないし、違和感のある靴を購入するのもおかしな話です。
サイズはぴったりでも指先などに違和感があるときは、店員さんにそのことを伝え、同サイズの在庫を出してもらってください。逆に、展示品を試し履きして問題がなかった場合、店員さんが在庫を出してくることがあります。その際も、必ずその在庫の靴を試し履きして履き心地を確認した上で購入してください。繰り返しますが、同じ商品の同じサイズの靴でも違いがあるからです。ことさら横柄な態度を取る必要はありませんが、靴選びの際は常識の範囲内でわがままに、慎重な態度で事に当たってほしいと思います。
|
| 足の「ウエスト部」を固定する意味 |
靴選びのポイントはつま先のゆとりとかかとのフィット感だと述べました。それとともに大切なのが、「ウエスト部」と呼ばれるかかとの付け根から甲にかけての部分の固定です。靴は歩行のための推進力を地面に伝える役割がありますが、靴の中で足がずれるとその役割を果たせなくなります。ですから、ウエスト部がきちんと靴に固定されている必要があるのです。足のウエスト部がしっかり固定されないまま、靴の中で足がずれた状態で歩いていると、知らず知らずのうちに足の筋肉に余計な負担を掛けることになりかねません。
足と靴に関するトラブルは女性に多く、それもつま先から指の付け根にかけてのものが大半を占めます。それは女性用の靴はパンプスのように履き口の広いものが多く、ウエスト部がしっかり固定されないために起こるのです。ウエスト部が固定されないと、靴の中で足が前へ前へとずれます。その結果、つま先が圧迫されて外反母趾(ぼし)などの障害を引き起こすのです。
そうしたことを防ぐためには、ウエスト部を固定できるベルト付きのものを履くか、靴の中で足がずれないように中敷きを入れること。もしくは、もっと簡単な方法もあります。百円ショップやホームセンターなどで、フェルトを圧縮した厚さ数ミリメートルの布を売っているでしょう。それを適当な大きさに切って、靴の中底のかかとが引っ掛かる少し前の部分に両面テープで貼(は)り付ける。それだけでも、靴の中で足がずれるのを防ぐ効果が十分あります。高校の指定靴になっていることの多いローファーの場合、そうした布を甲が当たる部分に貼り付けるのも効果的です。
外反母趾などの深刻な障害の場合は、医師の診断を仰ぐ必要があります。ただ、「つま先が痛いから外反母趾だ」などと思い込んでいるケースも少なくありません。足にトラブルを抱えた方がシューフィッターのもとに相談に来られ、足と靴とを拝見することがあります。すると、単に靴のサイズが合っていないためにつま先に痛みが生じていることもあるのです。もし足に軽度のトラブルを抱えているなら、現在履いている靴から別の靴に履き替えてみるといいかもしれません。それも、できることなら、ウエスト部をきちんと固定できるレースシューズ(ひも付きの靴)などに履き替えることをお勧めします。
余談ですが、ウエスト部を固定することがいかに大切かということを、わたしが再認識したことがあります。あるスポーツ用品メーカーの本社を訪れたときのことです。かつて見たことがないほどかかと部分が細い野球用のスパイクが展示されていました。聞けばイチロー選手のモデルだそうで、ご本人のオーダーで拘束具のように甲からかかとにかけてガッチリ固定できるように作られているとのこと。そうしたスパイクであれば、守備にしろ走塁にしろ、瞬時にダッシュする際にも足に余計な負担がかかりません。おそらくイチロー選手はフィールドでのプレーを重ねる中で、ウエスト部を固定することの重要性に気付かれたのではないでしょうか。
|
| 正しく歩くための靴と足の良好な関係 |
ウオーキングやジョギングをしている人を目にして、わたしが思うことがあります。公園のベンチなどで休憩しながら汗をぬぐったり水分を補給したりする人はいても、足をケアしている人はあまり見掛けません。足のケアといってもたいそうなことをする必要はなく、いったん靴を脱ぐだけで十分。それだけでも運動中に蒸れた足先をリフレッシュさせることができるのです。
それと同時に、ぜひ休憩中にやってほしいことが靴ひもの締め直しです。スニーカーの場合、靴ひもを結んだ状態のまま足をねじ込むようにして履く人が多い。それだけでも靴ひもは緩みますし、歩行中にも徐々に緩んでいきます。すると、当然ウエスト部の固定が弱まり、足に余計な負担を掛けます。足の健康のためには面倒がらず、靴を履く度にひもを締め直してください。
足の健康ということでは、正しい歩き方も重要です。正しい歩き方とは、まず、かかとが地面に着いたら、足裏の外側に沿って小指の付け根まで体重を移動させます。そこから体重を親指の付け根まで移し、親指を中心に人差し指と中指で地面をけり出す。その際、かかとから着地するときにヒザとアキレスけんをよく伸ばすことと、指先でしっかりと地面をけることが重要です。
足の指先を十二分に使うと足の裏の何層もの筋肉が絶えず伸び縮みし、静脈の血液が心臓へ戻る働きが高まります。「足は第二の心臓」ともいわれますが、歩くことで血行が良くなり、ひいては筋肉や心肺機能の働きも高まるのです。あらためて正しい歩き方などというと難しそうに聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。多くの人は無意識に行っているのです。
正しく歩くためにも、自分に合った靴が不可欠です。それも難しく考える必要はなく、靴選びの際に今までよりほんの少し気を配るだけで、足と靴との良好な関係が築けるはずです。繰り返しになりますが、常識の範囲内でわがままに、かつ慎重に靴を選んでみてください。そして履き方にも配慮すると、きっと靴や足のストレスから解放されるのではないでしょうか。(談)
|
またのよしひろ■一九四六年、岩手県生まれ。製靴メーカーにて四十年以上にわたり企画開発や消費者相談などを担当。その後、足と靴と健康協議会へ。同協議会が認定している靴選びの専門家「シューフィッター」が在籍している店舗などの詳細は、下記ホームページを参照。
http://www.fha.gr.jp/ |