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>>こだわりの日本語
「細かな点にまで気を使って価値を追求すること」という意味合いで使われているこだわり。でも、本来は「ささいなことを必要以上に気にすること」という意味なのです。こうした昨今の言葉の変わりようなどについて、このページでは少しだけこだわって考察していきます。
[最終回] 「〜していきます」って、どこに行くのでしょうか?
ことばの問題
Q
.次の例文うち、正しいのはどちらでしょうか?
A 「お名前を書いていただけますか」
B 「お名前を書いてもらっていいですか」
※答えはこのページの下に掲載しています。
テレビの料理番組を見ていると、「材料を切っていきます」「野菜を炒(いた)めていきます」「お皿に盛り付けていきます」など、臨場感を強調するような言い回しが耳に付きます。そうした番組の影響かどうか定かではありませんが、この「〜していきます」という言い方がずいぶん広まっているようです。会議の席上などでも、「資料をお配りしていきます」「それでは説明していきます」などという言い回しが飛び交います。なぜ、ストレートに「お配りします」「説明します」と言い切らないのでしょうか。
結論から言うと、まさしく言い切ることを避けているのでしょう。「お配りします」「説明します」は、自分の近未来の行為や行動について「これから、こうします」と宣言するようなものです。この宣言のような言い方は、ともすると一方的できつい印象を伴います。そこで「〜していきます」を付けることで、宣言調の言い回しを多少なりとも和らげているのでしょう。それでいて「〜していきます」には未来に向けて事態が展開していくという意味があるので、聞き手の注意を喚起することもできるのです。
似たような言い回しに、「〜したいと思います」があります。「次の議題に移ります」ではなく、「次の議題に移りたいと思います」などと言う。これも「〜したいと思います」を用いることで宣言調のぶっきらぼうな言い回しを避け、婉曲(えんきょく)的な言い方にしているのでしょう。
以前にも指摘しましたが、最近は若い人を中心に強い調子で言葉を相手に伝えることを避ける傾向があります。「〜していきます」も「〜したいと思います」も、そうしたことの表れなのでしょう。特に論理的に深く考えた上でこうした言い方をしているのではなく、当人は何とはなしに良かれと思っているだけかもしれません。けれども、聞き手には冗漫に感じられ、頼りなく腰が引けた印象を与えかねません。何もケンカ腰で話す必要はありませんが、ストレートに「します」「いたします」と言い切った方が、むしろ好感を持たれるのではないでしょうか。
それでは、わたしの話はこのへんで「幕を閉じていきます」といいますか、「終わりにしたいと思います」。呵々(かか)。(談)
ことばの問題
A.
正解は、Aの「お名前を書いていただけますか」。
【解説】最近、Bのような「〜してもらっていいですか」という言い回しを耳にすることがあります。これは依頼をする表現のようですが、そうではありません。自分のために何かをしてもらう許可を相手に求める言い方です。それでいて、言われた方にイエス/ノーの選択の余地はほとんどありません。
「〜していただけますか」にも指示や命令に近いニュアンスがありますが、素直に依頼した方が適切といえるでしょう。
きたはらやすお■筑波大学名誉教授(元学長)。独立行政法人日本学生支援機構理事長などを歴任。多くの辞典の編纂(へんさん)に携わっているほか、「問題な日本語」(大修館書店)などの編著書も多数。
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